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仙台地方裁判所 昭和29年(行)6号 判決

原告 大石則夫

被告 宮城県知事

主文

被告が、原告に対し、昭和二十九年三月二十二日した訴願棄却の裁決のうち、宮城県遠田郡小牛田町平針字浦田十五番十七番に関する部分を取り消す。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その四を原告、他の一を被告の各負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「宮城県農業委員会が、原告に対し、昭和二十九年三月二十二日別紙目録甲記載の農地についてした訴願棄却の裁決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める旨申し立て、その請求の原因として、宮城県遠田郡中埣村農業委員会は、昭和二十八年十一月十四日土地改良法第九十七条第三項の規定に基き、原告所有の別紙目録甲(3)(4)(6)(7)(8)(11)(12)(22)(23)記載の農地九筆を同目録乙記載の農地七筆と交換分合する計画を定め同日これを公告した。しかし右決定は次の理由により違法である。

そもそも土地改良法による農地の交換分合は農業経営を合理化し、農業生産力を発展させるため、農地の改良、開発、保全、及び集団化を行い、食糧その他農産物の生産の維持、増進に寄与することを目的とするところ、乙は甲に比し原告居宅から遠く、地味痩せ水利排水の便悪く、農業経営の合理化を妨げるばかりでなく、原告から十五番を奪つてこれを訴外佐々木正二に与え原告にその代償として十七番(地積は十五番のそれに同じ)を指定するが如きは農地の集団化を破壊することが甚しい。そこで原告は、同年十二月十日同農業委員会に前記事情を具陳して異議の申立をしたが、昭和二十九年一月二十一日これを却下された。よつて原告は同年二月一日更に同一理由をもつて宮城県農業委員会に訴願を提起したところ、同年三月二十二日これまた棄却の裁決を受け、その裁決書は同年四月五日原告に送達された。しかしこの裁決は農業経営の合理化を阻害し農地の集団化を破壊することが甚しい。よつてここに右裁決の取消を求めるため本訴に及ぶと陳述した。(立証省略)

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、「原告主張の農地交換分合計画、同公告、異議申立、同却下の決定、訴願の提起、同裁決が為されたことはこれを認めるけれども、その余の事実を否認する。右交換分合は洵に斯法の精神に合致し、毫も違法不当でないから本訴請求は失当である」と述べた。

(立証省略)

理由

昭和二十九年法律第一八五号農業委員会法の一部改正法附則第二十六項により、土地改良法上宮城県農業委員会を被告として提起すべきであつた本件訴訟は、宮城県農業委員会議成立の日である昭和二十九年九月一日宮城県知事が受継したものとされるから、同知事を被告として提起された本訴はもとより適法である。

原告主張の農地交換、分合計画、同公告、異議申立、同却下決定、訴願の提起、同棄却の裁決が為されたことは当事者間に争がない。

よつて先ず、右計画が農業経営合理化を害するかどうかについて按ずるに、検証、原告本人尋問の各結果を綜合すれば、右交換分合によつて原告が一面、地理的に原告居宅に近い浦田所在農地を失い、やや遠い西田所在農地を取得したことが明らかであるけれども、他面新たに取得した西田百四十六番農地が、その失つた西田八十六番、八十七番農地よりも約三十五間右居宅に近いこともまた右証拠によつて明瞭である。してみれば原告の新たに取得した農地が従前所有のそれよりも原告の居宅から遠いことを理由として本件交換分合計画が農営合理化を阻むとする原告の主張は採るに足りない。また原告は、新たに取得した農地は従前所有のそれよりも地味痩せ、水利、排水の便が悪いと主張し、本件検証、原告本人尋問の各結果を綜合すれば両者の間に若干原告に不利な点を認められないわけではないけれども、その度合は極めて微弱であつて、この程度の利不便はこの種大規模の交換分合に到底避けることができないところであるからかような些少な不均衡をもつて本件計画に致命的瑕疵が存するものと断ずるは穏当でない。しかしながら、既に集団化している農地をなんら特別の事情がないにかかわらず分散することは土地改良法の律意に牴触する外旧自作農創設特別措置法施行令第二十条が、市町村農業委員会が自作農創設特別措置法第十八条の規定により農地売渡計画を定めるには、自作農となるべき者の耕作する農地が集団化されるよう心掛けなければならないとしている趣旨にも反することはいうまでもない。ところで検証、原告本人尋問の各結果を綜合するによつて明白であるように訴外佐々木は本件係争地附近に過去において全然農地を有たず、また現在においても全然これを有たない。しかるになんら特別の事情の存在について主張立証がない本件において原告従前所有の浦田十五番農地(苗代)を原告から奪つてこれをその附近に全然農地を有しない訴外佐々木正二に与えて孤立化させ、更に原告に償うにこれまた孤立断層化している十七番をもつてし、よつてもつて農地の分散化を敢行する計画は斯法の精神に反し、不当であり(本件交換分合計画にあつては須らく十五番を原告に、十七番を佐々木に与うべきであつた)、従つてこの計画をそのまま肯定して原告の主張を排斥した本件行政庁の異議却下決定、訴願棄却の裁決もまたともに違法過当であつて到底取消を免れない。

よつて、原告の本訴請求は以上の限度においてその理由があり、その余の部分が失当であるから、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十二条を適用し、主文のように判決する。

(裁判官 中川毅)

(別紙省略)

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